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中国経済は技術窃取禁止で破綻

限界を超えている国有企業債務

 

 

中国は目下、米「通商法３０１条」によって知的財産権侵害の調査を受けている身だ。この決定に対して、中国では「猛り狂う」という表現がぴったりするほどの騒ぎを演じた。中国の最も痛いところを突かれる思いがしたのだろう。ならば、もう少し温和な対応をすべきであった。中国人の本性を見た感じである。相手に隠し事をしていた事実を衝かれると、反対に「逆襲」するという攻撃性を秘めている国なのだ。

 

時間が経つとともに、中国国内は少しずつ冷静さを取り戻してきた。

 

中国の李克強首相は８月２７日、政府のウェブサイトに掲載されたコメントで、次のように述べた。「中国の製造業部門を改善するために、市場の参入障壁を低減させ、職業訓練を改善し、知的財産権の保護を強化するべきと指摘した。『製造業は経済発展の土台だ。中国経済を向上させ、新たな産業化を実現するために、製造業を強化する必要がある』と述べた」（『ロイター』８月２７日付）からだ。

 

上記のコメントで、李首相は「知的財産権の保護を強化するべき」と発言するに至った。米国の「通商法３０１条」が知的財産権調査であることの重みが分かってきたのだろう。事実、米国は「通商法第301条」に基づき、技術移転、知的財産権、革新の各分野について、中国に対する貿易調査を正式に発動する、という内容だ。この調査結果について、中国に異論があれば反論すればよい。中国が、今から報復するなどと粋がることはないのだ。

 

中国経済は技術窃取禁止で破綻

『人民網』（８月２８日付）は、「日本も苦しんだ『米３０１条調査』は中国に有効か」と題して、次のように報じた。

 

この記事では、１９８０年代後半の日米貿易摩擦において、米国が「通商法３０１条」を発動して、日本の産業発展を抑圧した事実を取り上げている。その点で正確な面もある。だが、現代の中国産業のレベルアップ化では、中国独自技術があるわけでない。全て先進国技術の「窃取」に依存する中国は、日本のように独自技術依存１００％の国と状況が天地ほど違っているのだ。その違いを無視して、当時の日本の状況を装うあたりは詐欺師的である。

 

このあたりが、いかにも中国的な巧妙さだ。あたかも、現在の中国に独自技術があるようにカムフラージュしている。中国に独自技術があるならば、「米通商法３０１条」を怖がる理由はない。それが、あれだけ「逆上」して大騒ぎしたのは、先進国技術を「窃取」する道が閉ざされるからであろう。

 

（１）「通商法301条が前回大規模に応用されたのは1980年代で、当時は米国・日本間で貿易交渉が行われていた時期だ。米国が発動した中国を対象とする301条に基づいた貿易調査は結局のところ中米貿易に対してどのような影響があるだろうか。とりわけ中国経済に対してどんな影響があるのか。この問題を分析する前に、３０年前の日本に対する３０１条貿易調査がもたらした結果をみてみよう」

 

日米貿易摩擦は、米国の貿易赤字が耐えられない段階まで達していた時点で起こった。その結果、日本は米国へ大幅な譲歩を余儀なくされた。ドル＝円相場の調整による大幅円高と、半導体生産の自主調整を飲まされたのだ。この影響が、その後の日本経済に長く続いた。背景には、総人口に占める生産年齢人口（１５～６４歳）比率の低下がある。「人口ボーナス期現象」の終焉（１９９０年）と「人口オーナス期」の始まり（１９９１年以降）で、日本の潜在成長率低下が始まったのだ。

 

中国は、人口動態面では日本と同じ状況にある。「人口ボーナス期」は２０１０年で終わった。その後は、「人口オーナス期」に伴う潜在成長率の低下局面入りである。ここで、米国から突きつけられる「知的財産権」問題が、中国経済に致命傷になる。自国の技術開発能力は極端に低いからだ。頼みの国有企業のＲ＆Ｄ（研究開発）能力は、経済的に政府のインフラ投資資金を肩代わして余力を失っている。この点については後で触れる。

 

こうした「四面楚歌」状態で、米国の「通商法３０１条」調査を受ける局面になった。中国が、いかなる詭弁を弄しても、「技術窃取」の事実が明るみに出るはずだ。在中国の米国企業やＥＵ企業が非公式に実情を訴えているからだ。それが、公になっただけで中国は「敗訴」である。中国政府が、声高に米国を威嚇すればするほど、広範な違法性が明らかにされるであろう。ここは黙って、違法性の事実を認め、「恭順の意」を示すのが利益になろう。

 

（２）「１９８０年代初めに、日本の輸出企業は米国の圧力を受けて『輸出自主規制』に踏み切り、日本政府の対米輸出の勢いをそいだ。また日本の自動車メーカーはこの時期に米国への大規模な投資を行い工場建設するようになった。その後、米国の対日３０１条貿易調査は主として日本に市場を開放し、米国製品の対日輸出を受け入れるよう要求するという形を取った。日本は米国の圧力を受けて数々の譲歩を行い、プラザ合意に至りはしたが、米国の対日貿易赤字は１９８５年の４６０億ドル（1ドルは約109.6円）あまりから２０１６年は688億ドルに増え、貿易摩擦や為替介入によって縮小するどころか、かえって拡大を続けた。そこで後の日本のバブル経済崩壊の問題を分析する際には、８０年代の日米貿易摩擦の果たした役割を過大評価してはならない」

 

このパラグラフで奇異な点は次の指摘である。「米国の対日貿易赤字は、１９８５年の４６０億ドル（1ドルは約109.6円）あまりから２０１６年は６８８億ドルに増えた」という点だ。こういう記事を書いている意図は何か。多分、為替相場の調整をしても貿易バランスには大した影響力はないと言いたいのだろう。それは、大間違いである。貿易総額が当時と現在では拡大しているなかで、米国の対日貿易赤字は４６０億�
�ル（１９８５年）が６８８億ドル（２０１６年）に増えている。増加率で見れば４９．５％だが、３１年間でこれだけの絶対額の増加であれば、製品構成の変化も織りこめば、取り立てて騒ぐ数値でない。

 

それよりも、「日本のバブル経済崩壊の問題を分析する際には、８０年代の日米貿易摩擦の果たした役割を過大評価してはならない」と断り書きが入っている。この点に、私は腹を抱えて笑ったのだ。それは、これから始まる米中貿易摩擦が起こっても、中国のバブル経済崩壊に結びつかない、と遠回しに示唆しているからだ。米中貿易摩擦が起こり、中国の対米輸出が減れば、中国の経済成長率は低下し、外貨準備高は急減する。それは、人民元安を招くから資本逃避が本格化して、中国経済は一挙に傾くであろう。中国は、外部からこういう「予測」をされては困るのだ。

 

（３）「話を現在に戻し、目下の中米経済の競争・協力関係を詳細に分析すると、かつての日米貿易に似たところはあるが、両者の間の一連の根本的な相違をしっかりと認識することが必要だ。今回発動した貿易調査では鉄鋼産業などの劣勢にある自国産業を保護するだけでなく、米国の優位性が高い産業を威圧する中国の産業のバージョンアップに打撃を与えるのが狙いだ。これは今回の貿易調査で中国の『技術移転、知的財産権、革新の各分野』を調査する理由でもある」

 

米国が、トランプ大統領の支持基盤である鉄鋼産業を守るために、中国鉄鋼業に厳しい要求を出しているのは事実だ。中国政府は、鉄鋼業の過剰生産能力を１億５０００万トン削減するという２回目の回答をしたが、米から拒否されている。さらなる積み増しを要求されている。この問題は、今回の「通商法３０１条」とは無関係である。知的財産権侵害と関係ないからだ。

 

「通商法３０１条」は、米国が中国の技術移転、知的財産権、革新の各分野について調査することである。中国が、独自技術で産業のバージョンアップを図るものであれば、他国が口出しできるわけがない。それが、米国の調査対象になったのは、不法な「技術窃取」をしている疑いが持たれているからだ。何も、中国が今から怯えて騒ぎ回る話でない。技術窃取が事実であれば、それを中止して対価を払うことであろう。ただ、それだけのことだ。中国は、不法なことが許されないという単純な事実に従えば良い。

 

（４）「80年代の米国は日本への301条貿易調査でもこの手を使った。当時の日本は一部の半導体産業で相当な優位性を占めて、強大な宇宙航空衛星通信産業を構築しようと考えていた。だが89年と90年の日米貿易交渉において、米国はさまざまな理由により日本に独自の人工衛星プロジェクトを取りやめるよう強要し、生まれたばかりの日本の宇宙航空産業を抹殺した」

 

日本の半導体技術は、日本独自の研究成果である。日本が、半導体生産で米国を抜いて世界一になったが、米国は安全保障を理由にして日本へ「自粛」を求めた。当時の日米貿易不均衡解決という名目もあり、日本は涙を飲んだ。この間隙を縫ったのが韓国のサムスンである。日本の技術を窃取して、半導体で急速にシェアを高めた。日本は、急速な円高と日米半導体協定で縛られた。こうして、「日の丸」半導体の停滞を招いたのだ。今でもサムスンに対して、日本は憤懣やるかたない思いがある。

 

中国には何も独自技術がないのだ。「他人の褌（ふんどし）で相撲を取る」という極めて老獪な国である。米国の「通商法３０１条」の調査結果いかんでは、中国に「褌を貸さない」と言い出す公算が強い。中国は、自前の「褌」を持っていないから、相撲＝産業のレベルアップ化が困難になる。中国が大慌てしている背景には、技術の他国任せという「デタラメさ」を衝かれているのだ。

 

（５）「今回の米国の中国に対する知的財産権を中核とした貿易調査は、中国の産業バージョンアップ政策が実施されるタイミングに重なる。米国は自国の伝統的製造業や中間層・下層の雇用を保護するためというより、中国がチップ、通信、ロボットなどのハイテク製造分野に進出するペースを遅らせるため、中米間の生産力の格差を維持し、あわよくば拡大しようとするたくらみのために貿易調査を打ち出したといえる。だが米国のこうした貿易制裁措の圧力や措置は、中国が産業バージョンアップと自国のハイテク産業チェーン発展の必要に迫られていることをありありと物語るものでもある。今回の301条貿易調査が中国にもたらす最も重要な問題は、中国のハイテク製造業とハイテク産業が十分な成長の可能性を得て順調に発展できるかどうかであり、これは国の競争力の核心のありかでもある」

 

米国の「通商法３０１条」は、まさに「中国がチップ、通信、ロボットなどのハイテク製造分野に進出するペースを遅らせるため、中米間の生産力の格差を維持し、あわよくば拡大しようとするたくらみのために打ち出した」ものである。だが、米国政府による自国企業技術の保護は、中国の窃取を防ぐ目的であって、中国から非難されるいわれがないのだ。問題は、技術窃取している中国側にある。他国技術を威嚇して「窃取」する行為自体が、知財権の重大な侵害に当たるのだ。中国は、自分が泥棒をしながら、それを捕まえようとする米国政府を非難するに等しい。中国は、「主客転倒」も甚だしいことを言っているのだ。頭を冷やして考えれば分かることであろう。

 

（６）「20世紀の米国は貿易政策による圧力やその他の手段を通じ、日本に未来の方向性を決定づけるハイテク産業において米国と競争しないよう迫り、日本はほぼ完全に90年頃から現在に至るハイテクの波に乗り損ねた。現在、中国が科学技術産業の発展を1種のサーキットとみなすなら、モデル転換の重要な時期にある中国は米国がサーキットに置いたさまざまな障害に直面することになる。中国が先を行く米国との距離を縮められるかどうか、カーブで追い越せるかどうかは、今回の中国と米国との競り合いの中で決まることになる」

 

中国の屁理屈は「見事」である。１９８０年代の日本を例に出して、米国が日本の半導体産業に枠をはめたことを非難している。ここまでは正しいが、これから始まる米中経済摩擦は、日米経済摩擦とは異質である。中国は、米国の技術を「窃取」してのし上がろうとしているが、米国がそれにストップを掛けているに過ぎない。非は、全面的に中国にあるのだ。�
�界は、この明白な事実を知らなければならない。日米経済摩擦を引き合いに出して、中国の正当性をカムフラージュする。こういう嘘の「やり口」は絶対に許してはならない。尖閣諸島や南シナ海の領有説は全部、こういう嘘で固めた屁理屈を持ち出しているのだ。

 

限界を超えている国有企業債務

中国は、これから自前の技術開発においてどうするのか。

 

中国のＲ＆Ｄは、国有企業に行なわせる以外に道がない。だが、経営的にその余裕もなくなっており、過剰債務の重圧に苦しんでいるからだ。

 

『大紀元』（８月２８日付）は、「中国、国有企業負債額１５４４兆円、４年間で約8割増」と題して、次のように伝えた。

 

中国政府は、研究開発費にカネを掛けずに先進国の技術を「窃取」するという安易な道を選んできた。その代わり、国有企業の資金負担でインフラ投資を行なわせ、ＧＤＰを押し上げる「便法」を考えついたのだ。この、世にも珍しい手法がいま破綻しようとしている。国有企業の債務総額が１５４４兆円にも達し、日本の名目ＧＤＰの３倍弱という考えがたい水準に達している。国有企業に、Ｒ＆Ｄの余力などあるはずがない。

 

（７）「中国メディアによると、財政部の最新統計では、6月末までの国有企業負債増額は前年同月比１１．４％増の９４兆１２９３億元（約１５４４兆円）に達した。２０１３年２月末時点の５１兆８５００億元（約８５０兆円）と比べて８１．５％増加した。国内外専門研究機関や学者の間で、新たな世界金融危機のきっかけになりかねないと中国の債務急増に強く警戒している。特に、債務全体の大半を占める国有企業の負債に注目が集まっている」

 

習近平氏は今、秋の党大会（１０月１８日）に向けた「人事構想」に明け暮れているに違いない。経済面では泥舟に乗っていることも気づかず、「一帯一路」など大風呂敷を広げている。だが、今日も債務は膨張し続けている。中国経済の寿命を縮めているのだ。

 

（８）「国際決済銀行（ＢＩＳ）によると、昨年６月末まで中国国有企業債務規模は、非金融部門（企業と家計など）債務全体の約７０％を占めている。ＢＩSは中国当局のデレバレッジ（負債削減）への取り組みは主に国有企業債務に対するものだとの認識を示した。一方、国際通貨基金（ＩＭＦ）が今月１５日に公表した最新年次審査報告で、中国経済は過度な銀行借入に依存しているため、公的部門と民間の債務規模が危険レベルに達したと警告した。ＩＭＦは、中国債務規模の急激な拡大により、新たな金融危機の発生を警戒している」

 

ＢＩＳもＩＭＦも、ともにサジを投げた形である。ここまで債務が膨張すると手がつけられないからだ。こうなると、中国の金融破綻はいつ起こっても不思議はない状況である。私も毎度の警告で疲れてしまった。これが正直な気持ちである。

 

（９）「ＩＭＦによると、中国の非金融部門債務が過去5年間で倍となった。また、非金融部門債務の対GDP率は１６年末の２３５％だったが、２２年になると約３００％に達すると予測した。ＩＭＦは中国当局に対して、経済成長率の目標達成を優先させるより、危険レベルに達した債務の削減を速めに取り込んだほうがいいと忠告した」

 

米国には、中国経済を追い込んで破綻させるという選択もある。むろん、世界経済への影響は大きいが、日本経済のバブル崩壊時を考えれば、その影響が長く続く訳でない。米国は、ここでＴＰＰ（環太平洋経済連携協定）を復活させ、「通商法３０１条」で中国の技術「窃取」の道を絶てば、中国経済は確実に破綻させられる。それほど、脆弱な事態に落ち込んでいる。

 

将来のアジア安保体制の安定を考えれば今が、中国という軍事的な攪乱要因を除去する最大のチャンスである。米国が、軍事力を一切使わず「正統派」の経済政策を発動すれば、中国経済は簡単に崩壊する最終局面へ向かっているからだ。米国は、将来の平和戦略を考えれば、中国に妥協することなく粛々と経済政策を執行すれば良い。極論すれば、保護主義という邪悪な政策に依存せず、技術窃取を防ぐだけで中国経済は崩壊するはずだ。

 

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（２０１７年９月８日）

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